パニック障害とは
はっきりとした原因の有無にかかわらず激しい不安や恐怖を感じるパニック発作を起こした事をきっかけに、発作が起きた状況を過度に避けるなどで生活制限や支障をきたしてしまう疾患です。パニック発作は急性の不安発作で、動悸や頻脈、冷や汗、震え、息苦しさ、めまい等の自律神経失調症状とともに、「死ぬのでは」と感じるような強い不安や恐怖が起こります。
なお、動悸や腹痛、冷や汗、震え、息苦しさ、めまいなどの症状は、心臓疾患や消化器疾患、貧血や低血糖などでも生じる事がありますので、背景に内科的な器質疾患がないかどうかを調べる事も重要です。各種の身体疾患から症状が生じている場合には、担当科目の通院治療で症状が改善することが多いです。
パニック発作では身体不調状態が10分から1時間程度続きますが、その後は速やかに自然回復することが大きな特徴です。安静が保てる環境下で、不安を抑える頓服薬の内服をしたり、リラクゼーション行為や深呼吸などの呼吸調整法をおこなうことが有効です。
薬物療法と心理療法を併用した治療をおこなう場合もあります。当院では、SSRIというキモチとカラダの状態を整える薬を主に用いますが、漢方薬を単独使用したり併用したりする治療が有効な場合もあります。
パニック障害の原因
原因なく起こるパニック発作は、セロトニンやノルアドレナリンといった脳内伝達物質の量やバランスの崩れなどによって起こる脳機能障害だとする説もありますが、はっきりとした原因はまだ解明されていません。現在、パニック障害がある方は、大脳・大脳辺縁系・青斑核に変化を起こしている場合がある事がわかっています。高度な精神活動にかかわる大脳と本能的な不安や興奮に関与する大脳辺縁系にセロトニンの分泌異常が起こり回避行動や漠然とした不安を生じ、各臓器の機能を促進させるシグナルを発する青斑核が誤作動することで原因なく交感神経優位であるパニック発作を起こすと考えられています。交感神経系は命の危険を察した際に回避行動を起こす重要な役割がありますが、パニック障害では、危険がない状態であるにも関わらず、敏感に刺激を受け取り、交感神経系の過活動状態であるパニック発作を起こしてしまいます。
パニック障害の特徴
交感神経系の過活動状態は、本来、危険を回避するための役割を担っており、危険な状況に陥った際に生じる自然な反応です。また、閉所恐怖症の方が狭い場所に入るなど強い苦手意識があるシチュエーションになると発作的症状が起こることもあります。パニック障害は、きっかけとなる特定の状況がなく、理由がないまま突然、パニック発作を起こす場合もあります。
予期不安と広場恐怖
パニック発作は死ぬかもしれないと感じるような非常につらい発作です。そのため、「また辛い発作を起こすのでは」という強い不安が残ってしまうことがあります。こうした不安が消えなくなっている状態は予期不安と呼ばれています。
そして、パニック発作を起こした場所や助けが得られない状況で、「また発作を起こすのでは」と感じる苦手意識が出ている状態を、広場恐怖と呼びます。広場恐怖といっても広い場所が苦手になるわけではなく、対象になる場所はさまざまです。
放置して予期不安と広場恐怖が強くなってしまうと日常生活に大きな支障を生じ、外出できなくなったり、抑うつ状態をともなったりするケースも珍しくありません。気になる症状がある場合には、お気軽に御相談ください。
パニック障害の症状
パニック発作は、気持ちにあらわれる症状と、身体にあらわれる症状があります。いずれも突然起こって10分から1時間程度でおさまり、数時間以内には自然に普通の状態に戻ります。
気持ちにあらわれる症状
- このまま死んでしまうと感じるような強い恐怖
- 意識を失いそうになる強い不安
- 自分ではないように感じる
- 予期不安(また発作を起こすのではという強い不安)
- 広場恐怖(発作を起こした場所や助けが得られない状況に強い苦手意識を持つ)
身体にあらわれる症状
- 動悸(心音を強く感じる・ドキドキが大きくなる)
- 突然の息苦しさ・呼吸困難
- 過呼吸
- 喉の異物感
- 胸の痛みや不快感
- 腹部の違和感
- しびれや麻痺
- 大量の汗や冷や汗
- 震え
- めまい・ふらつき・意識が遠くなる
- 首・肩・背中の強いこり
- 頭痛
- 吐き気
パニック障害を起こすシチュエーション
パニック発作を起こす場所はさまざまですが、すぐに移動できない場所や状況、混雑している場所、誰もいない場所などで起こることが比較的多いとされています。ただし、理由なくパニック発作を起こす場合もありますので、就寝中に突然強い不安感や動悸を生じて目が覚め、眠れなくなるケースもあります。
パニック発作は激しい恐怖をともなうので、発作を起こすこと自体が次の発作を起こしやすくしてしまいます。「もしかしたら」と感じたら、お早めに当院まで御相談ください。
パニック障害の治療
悪化を避けるためにはできるだけ早く専門医を受診して、適切な治療を受けることが重要です。パニック障害は100人に1~2人程度が発症するとされているほどありふれた病気ですが、比較的薬物療法の効果が出やすい傾向があります。生活習慣の見直しや改善、認知行動療法のような心理療法も有効であり、当院では西洋薬だけでなく、漢方薬を使った治療もおこなっています。
パニック障害で受診される場合、初診時には治療や服薬にも不安を感じやすいため、当院ではパニック発作についてわかりやすくお伝えして理解いただいた上で、相談しながら治療方針を決めています。
薬物療法
抗不安薬という不安を抑える薬と、SSRIという心のバランスを整える薬を組み合わせた治療を中心におこなっています。処方は少量からはじめ、患者さまのお話をうかがって経過を慎重に確認しながら適切な処方にしていきます。短期間の処方が適した薬は、状態の改善が確認できたら徐々に減薬していきます。また、当院では漢方薬を併用した治療もおこなっており、状態や体質などに合わせた処方が可能です。
心理療法
気持ちの整理や捉え方の歪みがあるなどで心理療法が必要と判断された場合には信頼できるカウンセリングルームを御提案し、並行受診をお願いすることもあります。発作が起きている状況を客観的に捉えられるようサポートする認知療法をはじめ、患者さまのお話をきちんとうかがって理解・共感した上で支える支持的精神療法、苦手なことを無理なくできる範囲から段階を踏んで克服するためのサポートをおこなう認知行動療法などがあります。
御来院いただいた後の注意点
パニック発作やパニック障害の治療では、「また発作を起こすかもしれない」という不安がしっかりなくなるまで治療を続けることが重要です。特にパニック障害は改善と悪化を繰り返しながら徐々に快方に向かうことがほとんどを占めます。短期的な状態の変化に一喜一憂するのは気持ちの負担やストレスにつながります。医師の指示通りに服薬し、定期的に受診してじっくり治療していくことが大切です。