認知症とは
もの忘れなどの記憶障害が生じ、思考や判断力が低下して、言動の異常が現れ、日常に大きな支障を及ぼす疾患です。アルツハイマー型認知症が知られていますが、脳血管障害や外傷など脳にダメージを受けて発症する認知症などいくつかの種類に分けられます。脳にダメージを受けて発症する認知症は、慢性硬膜下血腫や水頭症のように適切な治療で治るケースも存在します。
認知症になる前の軽度認知障害の段階で発見し、適切な治療を受けることで進行を遅らせることが可能な場合もあります。軽度の認知症が疑われて受診し、脳血管障害が発見され、治療を受けることで将来の深刻な発作を予防できることもあります。こうしたことから早期に認知症疾患センターなどで精査鑑別するとともに専門医受診することが重要です。
脳の老化が関与して発症することが多いため、発症者数は増加傾向にあります。認知症は進行性の病気ですが、症状の内容や進行スピードには個人差があり、症状に合わせた薬物療法に加え、ライフスタイルに合わせて社会資源や介護サービスなどを上手に取り入れて治療をおこなうことが必要です。早期であっても健康や生命に大きくかかわる一過性の症状があらわれる可能性もありますので、できるだけ早期に治療を受け、並行して適切な介護サービスを導入することをおすすめしています。
認知症の原因と発症頻度
脳へのダメージによって起こる認知症は、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害、脳への外傷、脳腫瘍、脳炎などによって起こります。それ以外の認知症には、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などがあります。
認知症全体の発症頻度では、アルツハイマー型認知症が50~60%と最も多く、次いで脳梗塞・脳出血などによる血管性認知症が20~30%、レビー小体型認知症が10~20%、残りの10%がそれ以外の前頭側頭型認知症などとされています。老化が発症に大きく関与しますので65歳以上の方に多くなっています。
認知症の症状
認知症で最初に現れやすい症状は「もの忘れ」です。「食事を摂ったこと」は覚えていても「何を食べたか思い出せない」場合は「一般的なもの忘れ」と考えられますが、「認知症のもの忘れ」では「食事をしたこと自体を忘れてしまい」ます。また、認知症は進行性であり、最初のうちは最近のことを思い出せなくなりますが、次第に昔のことも思い出せなくなり、言葉の意味・場所や人の識別ができなくなり、状況や環境に合わせた言動をとれなくなります。
血管型認知症では脳で障害を受けた場所によって症状の内容や程度が大きく変わります。レビー小体型認知症では、幻視や転びやすいといったパーキンソン症状を起こすことが多く、前頭側頭型認知症では感情を制御できなくなって社会のルールを守れなくなるなど、健全なときと性格が大きく変わるケースがあります。
認知症の症状は、認知機能の低下によって起こる中核症状と、認知機能に関わらないモノである周辺症状に分けられます。
中核症状
記憶や認知機能を司る神経細胞が死滅することであらわれる症状です。自分では気付かず、周囲が先に気付くこともよくあります。また、認知症と思わずに心に問題があると感じて悩まれてしまうケースもあります。中核症状は、記憶障害、見当識障害、判断力・理解力・実行機能障害、失語・失認・失行、病識欠如に分けられます。
記憶障害
- 新しいことを覚えられない
- 同じ話を何度もする
- 約束を忘れる
- 家にあるのに何度も同じものを買ってしまう
- 食事をしたことを忘れてしまう
- 何をするつもりだったか忘れてしまう
- 知っている場所なのに迷ってしまう
- ものを置いた場所を忘れる・置いたこと自体を忘れる
見当識障害
- 現在の年月日・曜日・時刻・年齢がわからなくなる
- 自分のいる場所がわからなくなる
- 家族など身近な人が誰だかわからなくなる
- 季節や気温、状況に合わせた服装ができない
判断力・理解力・実行機能障害
- 料理の味付けをうまくできなくなる
- 複数の手順を並行して進めるのができなくなる
- テレビや映画の内容が理解できなくなる
- 失語・失認・失行
- 読む、書く、聞く、話すことが困難になる
- 理解することが難しくなる
- 身に付いていた手順や作業ができなくなる(失行)
周辺症状
認知機能には関与しない行動や感情の症状を含みます。症状の内容や現れ方に個人差が大きいとされています。精神的な症状と行動にあらわれる症状に大きく分けられます。
精神的な症状
- 気分の落ち込み・抑うつ状態・不安・無気力
- 外出時の迷子や徘徊
(慣れた場所や近所でも迷って帰れなくなる) - 幻覚や幻聴
(あるはずのないものが見える・聞こえる) - 妄想
(盗まれた・隠された・嫌がらせをされたなど)
行動的な症状
- うまく飲み込めない・むせる
- 歩き回る・徘徊する
- 歩けなくなる
- 不眠・すぐ目覚めてしまう・過眠などの睡眠障害
- ちょっとしたことで怒るようになる
- 暴力をふるう
- 食べられない物を口に入れてしまう
- 便をいじる
- 尿や便が出にくくなる
- 失禁する
認知症の治療
認知症を発症する前の軽度認知障害で発見できれば認知症への進行を遅くできる可能性が高いとされています。また、軽い脳血管障害などで症状が現れている場合、適切な治療により治すことや、将来の大きな発作の予防につながることもあります。疑わしい症状があった場合には早期に認知症疾患センターなどへ御相談されることをオススメします。
アルツハイマー型認知症などは完全に治すことがまだできません。薬物療法ではできるだけ症状を緩和して、進行をゆるやかにすることを目的として行います。QOL(生活の質)を下げないためにも、早めに認知症専門医療機関を受診して、適切な治療や介護サービスなどにつなげましょう。
御家族へのケア
認知症は御家族の心身にも大きな負担がかかることがよくあります。専門的医療機関では、介護をされる方の負担をできるだけ抑えるために、効果的な対応方法や認知能力を高めるサポートの仕方などについても教えてもらえる場合もあります。
また、社会福祉士やケアマネジャ資格を持つ精神保健福祉士が常駐している場合も多く、早期に準備するためにも、認知症治療専門医療機関へ御相談いただくことをおすすめいたします。
診断や治療を開始した後の注意点
認知症の症状は一時的に改善することもありますが、急激に悪化することもあります。症状が軽減して自己判断で休薬してしまい、症状が一気に進行してしまうケースがよくあります。症状や状態の変化を慎重に見極めた上で最適な処方が必要ですので、認知症専門医療担当医師の指示通りにしっかり内服を続けることが重要です。